カンパ

ヴルタヴァ川と城下小地区側の小運河チェルトフカに囲れた細長い中州カンパは、チェコ国内ではだんとつの魔物のように巨大な人口120万都市プラハの、あちらこちらに散在する牧歌的な心休まる場所のひとつで、カレル橋から階段で降りると2001年夏、天皇皇后両陛下もお泊りになった迎賓館リヒテンシュタイン宮殿のあるカフェテラスが並ぶ一角と、その先の巨大な三体の赤ん坊の彫刻が這う白亜のカンパ・ミュージアムのある、放し飼いOKなので犬の天国とも云われる市民憩いのカンパ公園からなり、川縁からはカレル橋や対岸の旧市街、国民劇場、中州射撃島には羽づくろいする白鳥、鴨、川鴎がたわむれ、公園外れのひとつ下流のレギー橋まで来れば、その先の中州子供の島に沿ってさらに上流のイラーセク橋へ抜けて行く採掘船やクルーズ船用の水門のある一段式パナマ式水路も眺めらる。また公園はづれの階段を上ったところにある一番地の建物は、国民劇場の建築家ヨセフ・シュルツが劇場建築時に余った石を遣って建てたアパートで、最上階軒下に並ぶ剥離しかけたトランプの絵札調の壁画にはなにか懐かしい妖精時代の雰囲気が漂っている。ところでこのカンパを流れる小運河の名称チェルトフカは女悪魔の意味になる。かつてここにあった水車に住んでいた女性が水車小屋の娘にしては必要以上に贅沢し放題であったのできっと悪魔に魂を売り渡したせいだとの噂が立ったことに依る。現在ここにはまだ二つの水車が回っていて、一つはカンパ公園外れにある小運河チェルトフカ沿いのカフェレストランに、もう一つは迎賓館リヒテンシュタイン向いの小路を辿りその先にある小橋まで行くと、こちらの水車にはチェコの河童が座っている。小橋を渡るとフランス大使館の真向いの壁が、いつ行っても一面落書きで埋め尽くされいるジョン・レノンの壁である。そしてこの二つの水車の間にある小橋を渡ると隠れるようにもうひとつ密かな公園があり、その芝生の上には寿命が尽きて倒れた古木を割って伸びてきた一本の木がいままた枝を広げ始めている。
 われと来て 遊べや主の ゐぬカンパ

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