シュテルンベルク宮殿

大司教宮殿左側のゲート内通路を行くと、国立ギャラリーのヨーロッパ古典絵画コレクション部門展示会場シュテルンベルク宮殿がある。宮殿は複合バロック様式で、1698年から1707年に建築家ドメニコ・マルティネリとジョヴァンニ・サンティーニにより建設される。三十年戦争の際、プラハに宮廷を移した皇帝ルドルフ二世のコレクションがスエーデン軍に収奪され、以来プラハにはウィーンやドレスデンにあるような美術館もなく、それを憂慮したフランツ・ヨセフ・シュテルンベルク伯爵が、1796年、一般向けに公開された絵画美術館の設立のため発足させたボヘミア芸術愛国同盟法人会が広く反響を呼び、貴族を始め中産階級からの多大な寄付、個人コレクション等の寄贈も受け、やがて1937年にはチェコスロヴァキア共和国の所有、そして第二次世界大戦後は国立ギャラリーの一部門を形成するまでになる。展示アートは古代ギリシャ・ローマやイコンからイタリア、フランドル、ヴェネチア、ドイツ、オランダのルネサンス、マニエリスム、バロックの絵画までとヴァラエティーに富み、サラエボで暗殺された皇位継承者フェルディナンド・ド・エステ家のパステル画コレクション等、個人コレクションの寄贈が母体だったせいか質も高く、まとまりもあり、見応えがある。ティレントット、パッサーノ、エル・グレコ、クラナッハ、ゴヤ、ルーベンス、中でもレンブラントの「学者の肖像」、ブロンズィーノの「トレドのエレオノーラ」、皇帝ルドルフ二世が噂を聞いて買い求め従者に担がせアルプスを越えて運ばせたというデューラーの大作「ロザリオの祝祭」はここにある。ところで新約聖書の「ルカの福音書」にその名を残す聖人ルカは画家や医者の守護神だが、世界で最初に聖母マリアの肖像画を描いたのでも知られている。その「聖母マリアを描く聖ルカ」というタイトルの2m四方の不思議な絵がある。1513年にマブスと呼ばれたヤン・ゴサールトというオランダの画家が描いた、ごく単純な中央遠近法による超リアルな絵なのだが、一見ルカと思われる手前の絵を描く首をかしげた男の足元にサンダルはあるが足がない。しかも彼が手にした紙の上に描いているのは彼のところからでは見ることができないマリアの顔だ。そんな細部に気が付くと謎がまた謎を呼び、ひとつひとつ、画面のすべてが謎に満ち、魅力を帯びて蠢きはじめる、画家が画家の守護聖人を描くという、現代の多面的なそれぞれの分野にも通じる大胆なテーマにしては、実に繊細な思考と技巧に満ちあふれた画面に仕上げた五百年も隔てた画家の器量はまさに賞賛に値する。宮殿の中庭には絵画鑑賞後にひと息つける、外の広場の喧騒が嘘のような静けさの中へ溶け込んだような簡素なカフェも待っている。
 いつ見ても また今ちがふ プラハかな

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